【私の働き方】養護学校卒業後も輝く人生を 「きららの木」理事長 江川美奈子さん
障害のある子供を持つ母親として、わが子の養護学校卒業後の進路を考えたのをきっかけに一念発起した。「自分の人生を『主人公』として生きてほしい。そうした力を養えるような施設をつくろう」。周囲の支援を受けて平成21年7月、障害者支援施設を運営するNPO法人「きららの木」(奈良市)を起業した理事長の江川美奈子さん(48)。「一人一人を人として大切に」を理念に、利用者の特性や地域とのつながりを大切にした事業を展開している。
■いとおしい「命」
就職をきっかけに奈良へきて、26歳のときに長男(22)を出産。2日後、医師から「障害があるかもしれない」と聞かされた。「なんで私が…」。悲しみが襲ったが、小さなわが子をみたとき、そんな思いは吹き飛んだ。「なんていとおしいんだろう」。この小さな命を守らなければならない。底知れぬ感情がこみ上げてきたという。
「ミルクも鼻から入れないといけなくて大変だった。でもそれよりも勝っているのが、『好きでたまらない』という気持ち。私のような親はいっぱいいると思う」。今でも当時の感情を思い出して涙ぐむ。
言葉を話すのが難しい長男は、高校までは養護学校に通った。卒業後の進路を考えたとき、まず頭に浮かんだのが「障害があっても自分の人生を輝いて生きてほしい。笑顔の絶えない人生を送ってほしい」という強い思いだった。
次第に「そんな支援ができる施設を自分で作ろう」と決心するように。養護学校の保護者仲間らの後押しも受け、起業へ向けて動き出した。
■生きる力を養う
21年に「きららの木」を起業し、理事長に就任。奈良市と生駒市で、子供から大人まで障害のある人に対し、生活介護支援や相談、児童の発達支援などを行う約10の事業を展開、職員48人を抱えている。
支援事業のプログラムでは「さまざまな体験をする」ことに主眼を置いている。黙々と作業をするだけではなく、買い物や料理、清掃活動、音楽演奏や畑作業など、「生きる力」を養うものを組み合わせる。「いろ葉ツアー」と題して、一泊旅行や動物園、スポーツ観戦なども実施し、利用者の「笑顔」を引き出す。「いろいろな人とふれ合って活動し、社会の中で生きてほしい」という願いからだ。
一人一人の特性に合わせて、例えば工作で、のこぎりを持つのが危険な人には、やすりを使うなど、参加意識を高めるためのちょっとした工夫も欠かさない。保護者の相談にも乗り、寄りそう姿勢を大事にしてきた。
■命は同じ重さ
こうした活動が実を結び今年6月、障害者の特性を生かして輝ける場を創出したとして、地域で輝く女性に贈られる内閣府の「女性のチャレンジ賞」を受賞した。「誠実に事業をしてきた結果。支えてくださった人に感謝の気持ちを込めていただいた。ますます誠実にこれからもすべての人にかかわっていきたい」と決意を新たにする。
相模原市で7月に起きた障害者施設での障害者殺害事件には「障害があってもなくても、一人一人同じ命。同じ命の尊さが軽視されたのは悲しいこと」とし、「人権の尊厳に心をはせて頂けたらなと思う。みんな一緒の命。支え合って、共に生きてゆける社会になれば」と訴える。
「利用者が人生の主人公となり、自分らしく輝いて心豊かに生きてほしい」。これからも温かなまなざしと強い決意で活動の幅を広げ、さらなる飛躍を誓っている。(有川真理)
江川美奈子(えがわ・みなこ)さん 昭和42年生まれ、愛媛県出身。26歳で長男、31歳で長女を出産。夫と長男、長女の4人家族。知人や関係機関の支援を受けて、平成21年7月にNPO法人「きららの木」を設立。その後、放課後のデイサービス「きららの木 りーふ」や生活介護事業「きららの木 いろ葉」などを開設。障害者の特性を大切にした活動ができる場を提供するほか、地域で自立した日常生活を営むことができるよう支援している。
【関連記事】
【私の働き方】子育て女性の居場所に 美容室・カフェ経営 松下千晶さん
【私の働き方】家族とともにコツコツと 植村牧場4代目 黒瀬礼子さん
【私の働き方】子供たちの元気な足育てる 「足育」広めるNPO代表・玉島麻理さん
【私の働き方】走り続けて38年 ホテル「花小路」専務 上田トクエさん
【私の働き方】社会の弱者に寄り添う 奈良弁護士会長 佐々木育子さん
産経新聞の試し読み、ご購読は http://sankei-nara-iga.jp/koudoku.html